名古屋地方裁判所 昭和59年(む)159号 決定 1984年3月05日
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
一 本件申立の趣旨及び理由は、申立人作成の「準抗告の申立」と題する書面及び準抗告理由書記載のとおりである。
所論は、要するに、昭和五九年二月二七日に行われた被請求人に対する刑の執行猶予の言渡取消請求事件第三回口頭弁論期日において、右事件の審理を担当する裁判官卯木誠は、検察官立証に対する弁護人の反対立証を許さず、意見陳述に限定する訴訟指揮をするなどしたので、弁護人が不公正な裁判をする虞があるとして忌避申立をしたところ、卯木裁判官は、右忌避申立を訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな忌避の申立であるとして、刑事訴訟法二四条一項に基づきこれを簡易却下したが、弁護人に訴訟遅延目的がないことは明らかであるから、右簡易却下決定の取消を求めるというにある。
二 そこで判断するに、一件記録によれば、卯木裁判官は、右第三回口頭弁論期日において、右弁護人の二名の証人取調請求及びクロレラフアミリーセツト一箱の検証請求をいずれも却下し、弁護人が求めた検察官に対する証拠提出命令の職権発動をせず、被請求人に対する薬事法違反被告事件の記録の取寄せもしなかつたので、弁護人が不公正な裁判をする虞があるとして忌避を申立て、卯木裁判官は、右忌避申立を訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな忌避申立であるとして、刑事訴訟法二四条一項に基づき簡易却下したことが認められる。
ところで、元来、裁判官の忌避の制度は、裁判官がその担当する事件の当事者と特別な関係にあるとか、訴訟手続外においてすでに事件につき一定の判断を形成しているとかの当該事件の手続外の要因により、当該裁判所によつては、その事件について公平で客観性のある裁判を期待することができない場合に、当該裁判官をその事件の審判から排除し、裁判の公正及び信頼を確保することを目的とするものであつて、その手続内における審理の方法、態度などは、それだけでは直ちに忌避の理由となしえないと解されるところ(最高裁第一小法廷昭和四八年一〇月八日決定、刑集二七巻九号一四一五頁)、弁護人の本件忌避申立は、結局、卯木裁判官の証拠採否の決定などを論難するに尽きるものであるから、本件申立は、理由がないのみならず、本件事案に鑑みると、卯木裁判官において、弁護人の証拠取調請求を却下するなどしたことが不適切な措置でないことも明らかである。その他、一件記録を精査しても、卯木裁判官が不公正な裁判をする虞があると認められる事情もない。
したがつて、本件忌避申立を訴訟遅延のみを目的とするものとして、刑事訴訟法二四条一項により却下した原決定は相当であつて、本件申立は理由がない。
よつて、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。